12月3日、東大阪市花園ラグビー場第1グラウンドで2022ムロオ関西大学ラグビーAリーグ最終節が行われた。天理大と対戦した同志社は47ー19で勝利。Aリーグでは2015年以来7年ぶりに漆黒の壁を破った。
勝てば大学選手権出場の可能性を残す一方、負ければ入れ替え戦の窮地に立たされていた。試合前の時点で大学選手権出場圏内の近大との勝ち点差は4。「5ポイント取るためにどうするかという準備をしてきた」(宮本監督)。近大を上回るためには、3トライ差以上をつけて勝ち点5が必須条件だった。
4年生にとっては、負ければ最後の選手権を逃す一戦。「1年間やってきたことを全部ぶつけよう」(大森・商4)。全身全霊を懸け、運命の一戦は同志社のキックオフで始まった。
前半1分、いきなり試合は動く。敵陣22㍍付近でラインアウトを獲得し、モールを形成。BKの選手も加わり、じわじわと前に進む。「BKも参加することで人数を多くして、モールでトライを取り切ろうと考えていた」(大森・商4)。最後はモールの最後尾からNO8林がゴールラインへねじ込む。「春秋通してFWでチームに迷惑かける部分が多かったので、FWでトライが取れて嬉しかった」(林)。開始早々の貴重な先制点を奪い、勢いに乗った。(7ー0)。
一方の天理大も黙ってはいない。前半7分、同志社の反則で自陣深くに侵入され、ラインアウトの好機を与えてしまう。ラインアウトモールこそ粘り強く止めたが、ピックアンドゴーを止めきれず、同点に追いつかれた(7ー7)。
一進一退の攻防を繰り広げる中、先に均衡(きんこう)を破ったのは同志社だった。自陣から連続攻撃を重ね、大山(スポ3)が10シェイプから中央を突破。「全員がボールを貰う気で今週意識して、練習してきた」(山本敦・社3)。同志社の連続攻撃を止められず、相手がペナルティーを犯した。敵陣5㍍のラインアウトからモールを組み、再び林がゴールラインへ。勝ち越しに成功した(14ー7)。
その後は、天理大が攻撃のリズムをつかみ、守備の時間が続いた。「両サイドの強いランナーにボールが渡る前に、どれだけ前に出れるかというところに注力した」(宮本監督)。その言葉通り、前への圧力を弱めなかったSO大島(スポ1)がキックチャージに成功する。こぼれ球を足にかけ、ボールはインゴールへ転がった。わずかに相手選手との競り合いを制し、グラウンディング。「最高の気持ちでした」(大島)。ルーキーの活躍でリードを広げた(21ー7)。
同20分には、防御のノミネートが被り、オフロードパスをつながれるとトライを献上(21ー14)。しかし同37分、スクラムで反則を誘発すると、敵陣22㍍ラインアウトのチャンスを得る。再びモールを形成すると、一塊になりインゴールまで押し切った(28ー14)。下馬評を覆し、14点差でハーフタイムを迎えた。
今試合のテーマである「強気」を体現し、自分たちから攻撃を仕掛けた前半戦。「キックの蹴り合いに付き合わないと意識していた」(西村・商4)。キックを蹴られても常にカウンターの意識を持ち、「MOVE」(常に動き続ける)ことをチーム全員で徹底した。
後半戦は意地がぶつかり合い、両者譲らない展開に。スコアボードがなかなか動かない中、後半も先に得点を奪ったのは同志社だった。同18分、馬渡が出足の速い好タックルで相手の反則を誘発する。「昨日のジャージ渡しで「流れを変える」と宣言していた」(馬渡)。有言実行のプレーでターンオーバーに成功すると、直後のラインアウトからモールを形成。タッチライン側にうまく回し、長島(スポ1)がライン上にボールを抑えた(35ー14)。「モールの部分で絶対にトライを取ってやろうと話していて、そこにフォーカスしてずっと練習してきた」(小島・社4)。ついに3トライ差をつけ、膠着(こうちゃく)状態を打開した。
同25分にも、交代で入った奥平(法2)が存在感を発揮した。持ち味の足首に突き刺さる強烈なタックルで相手を倒すと、こぼれ球を拾い、ビックゲイン。「自分が流れ変えないといけないという状況で入ってずっと狙っていた」(奥平)。直後のブレークダウンから新和田(社4)が相手を引き付け、大島にラストパス。そのままインゴールへ飛び込み、拳を突き上げた(42ー14)。復帰戦となった奥平が起点となり、速いテンポでボールをリサイクル。理想の展開で流れを呼び込んだ。
同33分には、前半同様ピックアンドゴーからトライを許したが、同42分にはモールから長島(スポ1)が駄目押しのトライ(47ー19)。西の聖地花園は大きな歓声に包まれた。計7トライを奪った紺グレは最後まで相手を寄せつけず、劇的勝利。ノーサイドの瞬間、梁本に駆け寄り歓喜の涙を流した。
全得点を1年生が奪った今試合。途中出場ながら、貴重なトライを挙げた長島がPOMに選ばれた。「自分の役割だったり責任を果たせるように心がけた」(長島)。ルーキーらしからぬ安定感のあるスローイングで何度も好機を演出。高さのある天理大に対し、ラインアウトを安定させたことは勝因の1つだと言える。
試合後は、選手全員で京産大対近大の試合を観戦した。この時点で、京産大が7点差以上をつけて勝利すれば、選手権出場が決定。一方で近大が勝ち点1を手にすれば、同志社は4位となり、この時点で敗退が決まる一戦だった。
この試合が終了し、39ー18で京産大が勝利。首の皮一枚つないできた大学選手権出場が決まった選手たちは、スタジアムの外で喜びを分かち合った。「宮本さんが築き上げてきたラグビーを出せた日で、自分にとって今後の人生でも本当に忘れられない1日になった」(梁本)。常に集中し続け、80分間築き上げてきたラグビーを信じた結果がこのようなドラマをつくった。
宮本監督は「本当にいいラグビーをしてくれた」と最後まで選手権出場を諦めず、不屈の精神で天理大に立ち向かった選手たちを称賛。また新和田は「勝ち点1(7点差以内の負け)のところで僕たちの積み重ねてきたものが出た」と冷静に振り返った。
最終節で5位から3位に浮上し、関西リーグの代表として次週から大学選手権に出場が決まった。数々の試練を乗り越えてつかみ取った選手権への切符。ここからは負けたら終わりの戦場であり、一戦必勝の戦い方が求められる。「あとは勝つだけ」(梁本)。1日でも長くこのチームでラグビーをするために。信じて応援してくれるファンの心を動かすために。古豪の誇りと貫いてきた信念を胸に、1つ1つ駒を進める。(文責・勝部健人、撮影・松井麻衣、林快人)